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製造業が海外進出すべき3つの理由

新型コロナウィルスの影響もあり、「製造業は国内回帰」という声をよく聞きます(2020年5月1日時点)。脱中国やグローバルサプライチェーン崩壊の影響を考えると国内で作っちゃおう、という理屈です。それは合ってると思いますが、だから海外進出しない、と考えるには早計です。

私は、中小製造業が取るべき基本的な方向性は、以前の記事「中堅~中小の製造業が勝ち残るには」に書いたものと変わらないと考えます。労働生産性を上げるために、付加価値を上げ、労働量を減らすことが重要です。

そのためのキーワードを改めて整理すると、協業・共創海外進出です。これは新型コロナウイルスとは関係ないし変わりません。今回は、なぜ関係ないかを含め、海外進出に焦点を当てて書いてみます。

製造業の海外進出の現状

現在、中小製造業はどのくらい海外進出しているのでしょうか。

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少し古いデータですが、2001年に比べて2013年は47%増えて約6,400社が海外進出しています。増えていますがまだ6,400社で、率にするとたったの3.5%!え?というぐらいの数字です。

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中小製造業が海外進出するきっかけは「取引先が海外進出しているから」というケースが以前は多かったようです。Dejimaが発行している「海外進出白書 (2017-2018年版)」によると、進出先を決めた理由は「すでに取引先があったため29.9%」「取引先が進出したため13.4%」とあります。恐らく積極的に自ら海外進出した企業は、全体が3.5%なので3%もないでしょう。

原点に帰ると、海外進出の最大の目的は「労働生産性の向上」です。海外進出した企業の労働生産性はどうなっているのでしょうか。まず製造業の規模別労働生産性を見てみます。

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中小製造業の労働生産性は、近年微増ながらもほぼ変わらずで、大企業と比べると4割程度です。ただし、事業者数は1999年の483.7万者から2014年の380.9万者と15年間で20%以上減っています。労働生産性の低い事業者が減りやすいと考えると、実質労働生産性は上がっていないのでしょう。なお、アメリカの製造業全体の労働生産性は日本の1.5倍です。日本の製造業、特に中小製造業の労働生産性はものすごく低いです。

海外進出している企業としていない企業を比べてみたいと思います。

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これを見ると、直接投資(海外に工場や営業所など拠点を作った)した企業の方が労働生産性が高いと言えます。必ずしも「海外進出したから」という因果関係を証明するデータではありませんが、海外進出した方が高い労働生産性を狙えるという仮説がより強固になる材料にはなると考えます。

最後に、日本のものづくりの力を考えてみます。

1990年代、ジャパンアズNo.1と言われてた時代から考えると今の日本のものづくりブランドは見る影もないです。時価総額が日本で一番のトヨタですら世界では35位でサムスン(17位)やTSM(19位)より下です。ものづくりの技術で日本がトップを走る時代はとっくに終わっています。私は外資系の企業の方と話す機会が多いのですが、正直日本のものづくりのブランドを感じたことはないです。ちゃんと丁寧に作ってる、細かなことにこだわっている、ぐらいの感覚です。

しかし、近年は上昇傾向にあるようです。

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デロイトの2016年の調査結果ですが、2020年予測で日本は世界4位です。そこには「製造業が先進的で高度になるに従い、先端製造技術の開発に投資し続けてきた 20 世紀の製造業の伝統的中心国(米国、ドイツ、日本、イギリス)が今や順位を再上昇させている。」と書かれていました。多少疑問に思うものの、日本の技術力は落ちきっていないのでしょう

コロナ禍でも海外進出をすべき3つの理由

さて、いくつかデータを見てきましたが、改めて海外進出すべき理由を提示します。コロナ禍でグローバルサプライチェーンが崩壊し、国内回帰の声が聞こえますが、勘違いしてはダメです。食料やライフラインに関するものの国内生産、BCPを考えてのサプライチェーン構築は必要です。だから国内中心に出来るかと言うと絶対違います。

①国内GDPは成長せず、海外に頼ることは重要

日本経済研究センター 長期経済予測第二次報告(19年6月17日)の主要国GDPの予測値です。

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成長のない経済がずっと続いて、今の資本主義の前提で国が成り立つのかというレベルの問題になっています。残念ながらまだ何年かを生き残ろうと思うと成長軌道に乗ることが手っ取り早く、その国は日本ではないのです。

こんな状況なのに海外進出している割合が3.5%なんです。普通に探しても簡単に見つからないレベルです。成長しないGDPや3.5%の低い進出率は新型コロナウイルスと全く関係ありません。中国依存からの脱却や国内回帰が進めば多少はマシになるかもしれません。しかし景気は回復しきれないでしょうし、ガンガン日本でモノを作って輸出しまくる未来までは想像できません。

②単一事業に集中しながら大きな市場と高付加価値を狙える

今、世界で成功している企業の多くは、成功までのプロセスでは単一事業に集中しています。あれもこれも総合的にやるということはしていません。一つに集中してその製品やプロセスを磨きまくってます。その磨きまくったモノを、各国へアレンジしながらも世界展開して成功しているのです。磨きまくった製品だから高付加価値になるのです。

逆の表現をすると、一つのモノで国内需要で成長するのは困難で、国内だけで生き残るには色々なことをやらなければならず、結果複雑になったり磨ききれずに労働生産性が落ちる、ということが懸念されます。実際にパワーが分散され、規模の経済性も働かず、高付加価値製品ができないため、日本企業の労働生産性が低いのだと考えています。

③人材や資金を集めるチャンスが広がる

優秀な人材が集まらない、という話をよくクライアントから聞きます。そりゃそうですよね。若い人は世代人口が減り、中途半端に豊かな状況で大した勉強もしていない人がウヨウヨ。そもそも労働人口はどんどん減る。そんな中から優秀な人を探すのは至難の業で、それを中小製造業が簡単にできるはずありません。もっと広い目で世界から優秀な人を集めた方が絶対面白いモノ、いいモノが作れます

資金も経済成長がなく、リスクを取ろうとしない日本で資金を集めるのは簡単ではないです。前提ですが、私の中小製造業への考え方は「国の補助金に頼り切らず、ベンチャー企業のつもりで安定成長を目指す」です。その前提での意見と考えてください。

新型コロナウィルスの影響が出る直前に、私たちはエンジェルから資金調達の約束をもらうことができました。まだサービス開始前でしたし、当然実績もなく、ベンチャーキャピタルからは「奇跡だ」ぐらいのことを言われました。たまたま縁があって出資していただいたのですが、普通はこうはいかないです。なんと、アメリカのVC投資額は日本の50倍!理由はこんなことが考えられます。

  • ベンチャーが日本には少ない
  • 投資家が少ない
  • 投資用の資金が少ない
  • 資金を運用できる人が少ない

お金も出資先も少ない国で資金調達するのは、これもまた至難の業です。

少し話は変わりますが、私にとっての会社の存在理由は「理念と技術と文化の伝承」と「関係者の幸せの永続」です。それには人と金は大切で、海外は重要な選択肢だと考えています。

海外進出でまずやるべきポイント

たとえ必要であっても、資金も体力もない中小製造業が海外進出するのはものすごく大変ですし、いきなり闇雲に飛び出すのはオススメしません。まずは以下のことから始めてはいかがでしょうか。

①自分たちの強みを再整理し、海外向けの強みを明確にする

極端な例ですが「足繁く通う便利屋」は海外向けには強みになりません。まめなフォローが仕組みになっていると強みになりますが、国内だから実現できることは意味がなくなります。また、国によってニーズや価値は違います。改めて自社の強みを整理した上で、オススメは英語のホームページを作ることです。成果物を海外の人向けに作って見ると、より自分たちの海外向けの強みが理解できます。

②海外展開を前提とした技術や製品を計画する

小さなボタンの製品を作っても欧米人には押しにくい、機能が多い製品を高く売っても途上国では高額すぎて売れない、手の込んだ品質管理をしていても中国ではそこまで要求されていない、などミスマッチの例はたくさんあります。国ごとの性質の話ではなく、そういった海外でのミスマッチを展開リスクとして想定し、海外展開を前提に技術開発や進出計画立案することが重要ということです。ブランディングを考えて名称は英語圏の人が呼びやすいようにする、といったことまで含めて海外頭で考えましょう

③進出するパートナーを探す

色んな人・適切な人に協力してもらって始めて成功します。以下に書いた人たちは全部重要です。

  • 同業他社などの仲間(人やオペレーションをシェアする)
  • 国内の海外進出支援者(プラットフォーマー、JICA、専門家、など)
  • 進出国での支援者
  • 進出国出身の社員(できれば現地にいる人)

一人ではなく仲間と進出を考えたり、先に出ている人のリソースをシェアしてもらうなどをして、体力の弱い自分だけで進出するのを回避した方がいいです。また便利なツールを使ったり、様々な専門家から適切な支援を国内外で受けることは必須です。そして、最終的には進出国の社員を採用するところまで視野に入れましょう

④検討の担当者を決める

海外の情報収集や海外パートナー候補とのやり取り、英語での技術説明などを行う語学ができる担当者を決めましょう。担当者すらいないのに海外進出なんて絶対にできません。最悪今から日本の社員に英語の勉強をさせてもいいです。重要なのは担当者を決めることです。

①~④を実行するには経営者のマインドセットが最重要です。語学や外国文化への理解は後でいいですし、語学は最悪いいです。多様な文化を受容し、日本が一番といった自国主義を抑え、海外に合わせたマネジメントをする。何より覚悟を持って海外へ向かうことが必要だと考えます。

海外進出ができないと思っている方へ

海外進出はやるべきことなんです。やらなくて生きていければいいですが、いいものづくりをするためには、作りたいモノを作るためには、必要なことです。なので、できない理由を探しても意味はありません。やる方法を考えるべきです。

言葉や心理的な距離感は犬も食わないです。数十年前、中国は日本など海外向けのものづくりで発展しました。日本語や日本文化なんて全く知らないはずなのに、日本語を覚えてめんどくさい日本人向けの細かい要求にも応えてものづくりをしていました。同じことをするだけです。

新型コロナウイルスの影響だけでなく、元々資本主義の限界が来ていたと思うので、これからどんどん価値観が変わり、上に書いたことも変わってくるかもしれません。しかしながら、今やるべきこと・できることをやらない企業は存続できないと思います。これを読んだみなさんが苦境を乗り切られることを願っています。

Written by 辰巳 竜一

中小製造業を応援しています! 辰巳工業株式会社元取締役、中小製造業向け経営コンサルタント(株式会社ヴィサイプ代表取締役)。家業の鋳物工場の成長させた実績から、現在は中小企業のブランディング(国内および海外)や事業戦略から現場改善への一連の統合した活動を支援。

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