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コアの技術を活かし、他業界そして海外へ展開していく 弘田社長インタビュー

弘田化学工業株式会社 弘田社長

製造業社長インタビュー

弘田化学工業の弘田代表取締役社長に事業展開と経営についてのインタビューを行いました。デジタルトランスフォーメーションの話から、海外展開まで大変有用でためになるお話をお伺いすることができました。

弘田化学工業の事業とマーケットについて

日比) まず御社の事業について教えていただけますか。

弘田社長) 主に半導体の製造工程で使用する高純度化学薬品の製造および販売をしています。半導体は産業の米と言われていて、電化製品の中に部品として数多く入っているんですね。

携帯とかパソコン、最近は車の中にも入っているんですけど、パソコンのCPUとかメモリ、カメラのイメージセンサーとかLEDライト、そういったものは全部半導体です。これら半導体の製造工程では、化学反応でシリコン基板の上の配線を、洗ったり削ったりを組合せることで、電気回路を作り込んでいます。

この洗ったり削ったりする特殊な薬液をつくるのが我々の主な事業です。弊社は1940年頃の半導体黎明期、トランジスタの時代からこういった化学薬品の製造に携わっています。

日比) 主なお客さんはどういうところになりますか?

弘田社長) 日本でいうと、半導体デバイスメーカーの東芝デバイス&ストレージ社様であったり、このあいだまで東芝メモリだったキオクシア社様とかになります。

日比) その中で、まず御社の会社としての強み、そして技術的な強みを教えてください。

弘田社長) 弊社の強みはですね、高純度薬液の調合、充填に、それらの分析保証技術、これが実質的な優位性だと考えています。

また、少量で多品種の対応ができるのも強みです。

日比) もう少し詳しくその強みを説明してください。

半導体はムーアの法則(半導体性能は18ヶ月で2倍になる)に従い、高集積度・高性能化をし続けています。基板の原料シリコンは99.999999999%(イレブンナイン)の純度が求められ、例えばその洗浄に使用される水(超純水)も極めて厳格な純度が求められます。

不純物イオンやゴミが全くと言って含まれない状態です。ミネラルなんて入ってないから飲水にはなりません。弊社では水だけでなく、弗酸や硝酸といった毒劇物と言われる、危なくて取り扱いが困難な薬液やその混合物に対して、高純度対応のノウハウと実績があります。

加えて、高純度状態をきちんと測定して保証できる体制=微量分析の技術も大切な強みと考えています。分析そのものはびっくりするくらいの価格の機械で行うのですが、薬液の組成や濃度、状態によって、様々な前処理やノウハウがあります。長年に渡る経験が活きる分野で、様々な分析が可能だと自負しています。

あとここ2,3年ぐらいの話になりますが、強みである高純度薬液の製造・分析技術を活かして、半導体以外の業界への開発提案や受託生産のアプローチも積極的に行っています。社内では『新機軸案件』と呼んでいて、片方の軸足はいままでの高純度で、片方はいままでやったことない業界、例えばヘルスケア業界で事業することを進めていて、その営業展開の成果が今出てきています。

そしてそこからさらに新しい技術の実績が出始めています。

日比) 半導体業界以外への展開についてもう少し教えてください。

弘田社長) 半導体業界は、高純度化という意味だと、本当に世界一のレベルを求められているので、その次ぐらいの液晶とか、ヘルスケア、そして自動車業界への展開を進めています。

そういった業界ではある製品を作る時に、今までは一般的な工場で作っていたのですが、やっぱりもう少し綺麗に管理された先ほどの水や薬液でないといけないとなってきていて、半導体レベルの管理ができる会社を探したりしています。

日比) 今後はそういう違う業界の方への展開をより力入れていきますか?

弘田社長) もうかなり力を入れてやっています。私は2年ぐらい、もうずっとそればっかりやっています。

日比)今後の技術面での展開はどう考えていますか?

弘田社長) 半導体の最先端技術を追い求めていきます。半導体の技術はどんどん進化しています。それにより求められる薬液も変わるし、高純度化している。その技術を追い求めていきたいと思います。結果、それが他業界にも活かせると思います。

デジタルトランスフォーメーションについて

日比)少し話が変わるんですが、御社の例えば資料をデジタル化しているとか、そういうデジタル化の状況について教えてください。

弘田社長) 会社としてのIT化は、世の中一般的には遅れている方だと思っています。従業員のITリテラシーはまだまだ向上の余地があります。

パソコンが使える使えないという話よりも前に、再利用可能なデジタル資源、提案書やプレゼンのテンプレートをみんなで共有して使うとか、過去の記録をサーバに保存して検索して使えるようにするとか、スケジュールを共有するみたいな文化がないのです。

なので、デジタル化の前に、そういった啓蒙活動を一歩一歩進めつつ、ファイルサーバや保存場所を決めるところからはじめて、ようやくなんとなく標準化とか情報共有とかをみんな考えるようになってきています。なのでまだまだ効率化の伸び代があると思っています(笑)

日比) 例えばその工場の機械や装置で、IoT化とか、その辺は何か進められていますか?

弘田社長) 工場の機械については、全くIoT化できていません。

IoT化はまずバックオフィス系、いわゆる経理や受発注や営業系の人たちで進めています。顧客や製品の単価、在庫の数量なんかを謎のキングファイルから、電子化して一元管理し、外にいてもVPN経由で社内の資料にアクセスしたり、Web会議するようなことはできるようになりました。製造現場ラインの人たちはパソコンで報告書を書く程度なので、設備に何か測定・記録するような装置をつけて、自動で管理・監視していくような発想はまだないです。

今は、製品の製造記録(トレサビリティー)を1枚の紙から電子データにするにはどうしたら良いかを検討しています。トレサビリティーとは、製品を作る時に、原料AとBを何キロずつ、何℃で調合し、何分間撹拌したか、その途中のサンプル分析結果や充填時の重量や本数等、製造に関する全ての記録です。

現在は、それを1枚のトラベルシートというフォーマットに各担当が次々と記載して、次の担当に紙で渡していくのですが、途中で行方不明になったり高純度製品をつくった記録とは思えない状態で回ってきたりと、不具合が多いのです。

いまそのフォーマットを電子化してタブレットにのせる取り組みを助成金を使ってやっています。うまくいくか微妙ですが(笑)。

コロナの影響と対策、今後について

日比) いま、コロナで大変な時期ですけど、コロナによりどのような影響を受けていて、現状としてどのような対策をとられていますか?

弘田社長) 売上に対する直接的な影響は実はいまのところないんです。お客様のデバイスメーカーはテレワークの広がりにより売り上げが落ちてないようです。

でも、やはり景気が落ちてくると、当然こういったパソコンとか電化製品が売れなくなり、半導体も売れなくなって、お客様の稼働も悪くなるので、先行きに不安を感じています。

コロナに関して言うと、さっきのデジタル化の話で、これを機に、テレワーク可能な人を増やそうとしています。テレワークするためには、スケジュールや業務分担を可視化して共有することが絶対必要です。勤務時間よりも成果物重視で効率的に働いてもらえたらいいと思っています。先程のトラベルシートのデジタル化というのは、このテレワーク推進で動き出したのが大きいです。

日比) コロナの対策としてテレワークを始めているということですが、どういう部署を中心に始めていますか? またさらに広めていきますか?

弘田社長) 最初はツールの揃っている営業から始めました。トライアルメンバーがZOOMとTemasとWebExとLINEといろいろ試してみて一番操作が簡単なZOOMを選びました。

営業の次に業務(受発注)、そして今、製品保証の技術メンバーの仕事をテレワーク化しようとしています。その次に製造課を考えいて、いまどういうふうにやるか検討中です。その準備段階として、社内の会議もそれぞれの席でウェブ会議しています。

日比) 製造課もテレワーク化を進めるのですね。

弘田社長) 数値目標として会社の半数の25人はテレワークできるようになろうとして、取り組んでいます。

日比) テレワークする上で、課題というか、助成金もありますが政府におねがいしたいことはありますか?

弘田社長) 助成金は都のテレワーク助成金を申請していますが、このコロナ禍で、見積りは取れてもその場で売り切れになっていきます。3社から見積りを取って申請しましたが、候補の機器はもう全て同じ値段・数量で調達できない状態です。

行政に確認したところ、申請価格を超えなければOKということですが、やっぱり認可と給付が遅いかなと思います。

日比) 事業的には今後マーケットが悪くなってくるとすると、生産を抑えるしかないですか?

弘田社長) 自分たちの仕事はお客様の工場が稼働してはじめて使ってもらえる。その点は自分たちの努力ではどうしようもないと達観しています。

先ほども話したように、足元では、テレワークの広がりによりパソコンもタブレットも品薄となり、お客様工場はフル稼働の状態です。ただ、景気が悪くなることでお客様の工場の稼働が落ちることも心配です。

一方で半導体は5GとかAIと言った近い将来のマーケットでも重要な部品なので、全世界の市場としては長期的には確実に伸びると思っています。先程達観していると言いましたが、コントロールできないことは気にせず、売上が1年間半減しても全従業員と協力して生き残れる筋肉質な財務状況を作り上げるよう努めています。

海外への展開についての考え

日比) いま海外との取引はどういう状況ですか?

弘田社長) 主体的な海外展開への取組みは実施出来ていません。

と言っても、実は海外企業からの銘柄ご指名で、韓国/台湾/中国/シンガポール/イタリア/チェコスロバキア/イスラエルへの輸出があります。極めて少量ですが。からくりはこうです。日本の半導体製造技術を海外に輸出や移転した際に、装置とセットで薬液も移転されます。

その後、薬液はだいたい現地化されるのですが、現地の企業ではどうしても作れないようなノウハウのある製品があり、現地化されず輸出しています。

半導体の世界市場は、今後5G 等で伸び続けると言われていますが、日本の半導体市場はシュリンクしています。当然、我々の同業他社はアメリカ、台湾、韓国、その先の中国でどうやってビジネスしていくかを長期的に取組んでいますので、弊社も今のままのアプローチだけではいけないという想いもあります。

日比) 今後の海外展開について、主体的にやっていくプランはありますか?

弘田社長) 現時点では手が回らないというのが正直な回答です。ただ、先程の海外輸出品のように、実際に日本で作れたものが海外の現地メーカーでは作れないという事実がありますので、チャンスはあると前向きに捉えるようにしています。

現在の弊社リソースで海外展開の可能性があるのは、以前も途中まで取組んだことがあるのですが、海外の現地のパートナーにノウハウ的なもの、調合のレシピであったり製造の設備や分析の手法であったり、を売るというか、ライセンスしていくというのは、あり得るのではと思っています。

日比) レシピは資産というか一番重要だと思うのですが、それを渡していいのですか?

弘田社長) 確かに開発に至る経緯を考えるとレシピは大切な資産です。配合の比率は重要なのですが、その製造管理手法や製品の中に少しだけ添加する特殊な原材料だけは、日本から技術料込で販売する形で現地パートナーと長期的に関係が持てないかと考えています。

そして更に現地パートナーの持つ弊社に無い技術・ノウハウをこちらに吸収してクロスライセンスのような形で事業展開を、、、なんて日が来る。と信じるようにしています。

日比) 当面は国内マーケット重視でしょうか?

弘田社長) 日本国内の半導体市場がシュリンクしていると言っても、弊社のシェアはまだまだ小さいです。大手が海外志向なのも追い風となり、やり方によっては、日本国内の半導体市場はまだまだ深堀りできると思っています。

特に日本では、半導体デバイスの多様化により、薬液に求められる特性も細分化されてきており、1製品で毎月何百トンも出るようなマスマーケットは少なくなってきています。

大手の同業他社は1製品で月1トン位となると、まず手を出してきませんので、残存者利益では有りませんが、残った中小の我々がカバーできるかなと考えています。

 

弘田社長の経営、仕事に対する考え

日比) 弘田社長の仕事していくうえでポリシーというか仕事術を教えてください。

弘田社長) 他の人に「これが俺の仕事術だ!」と言えるようなものは持ち合わせていません。あればもう少し効率的かつ効果的に動けているような気がします。

ただ、孫子の『巧遅拙速』は好きな考え方で、意識して行動しています。100%のものを期限に持って行ってあてが外れていてはどうしようもないので、例えばお客様に提案することがあれば、話を聞いた後にさっと調べて、お客様にその日のうちにでもメールしてこんな感じですか?みたいなことを確認します。そして間違いなければそこからさらに深めるようにしています。

何よりも我々の特徴は大手にない機動力、スピードで、それが信頼に繋がると社内でも口酸っぱく言っています。ところが、完璧さを追求するあまり、いつも期限がぎりぎりになる人を見かけます。完璧さを心掛けること自体はとても素晴らしい考え方です。ただし、時間がかかりすぎて機を逃しては元も子もありません。

日比) そうすると社員が、まだ熟考できていない話を社長にもって来やすいようにしないとかないと思うのですがどうしていますか?

弘田社長) 話にくいでしょうね。(笑) そもそも外回りで会社にいませんので。

拙速に行動してもらえるよう、例えば今日中に1回考えて不明点リストして一緒に考えようとか、手書きメモでいいので進め方をメールしておいてと指示しています。そのために、ボタン一つで私宛に紙をスキャンしてメールしてくれる機能を複合機に設定しています。

 

日比) 前職(NTTデータ)の時の経験などを活かして何か取り組んでいますか?

弘田社長) 聞いたことのない地元の中小企業に入ってきてくれた社員なので、仕事で自己実現するとか、何かを成し遂げて成長して行こうというモチベーションよりも、どちらかというと受け身な社員が多いかなと思います。

しかしながら、本当にまじめな人が多く、せっかく弘田化学に入ったのだから、仕事にやりがいを感じて貰えるように、まずは働きやすい環境を作ろうと考えました。

そこで、大企業が取組んでいるような制度の実現を目指し、働き方改革の取り組みをしました。取り組みたい人に手上げてもらってチームを作って取り組んでもらいました。
私から言った制度導入にあたっての大方針は

  1. 充実した人生を送れるよう、有給取得率100%を目標とする
  2. 全員が長く安心して働ける環境にするための制度にする
  3. 各人の多様性を尊重しつつ、全員に公平な仕組みであること
  4. 制度の導入はフレキシブルかつクイックに、最小の労力で最大の効用を追求する

これに沿っている提案をしてくださいといいました。

大小15項目ほどの制度提案があり、10項目ほど導入しました。一番の目標であった有給取得率アップについては、当初50%程であった取得率を3年で100%にしようと取り組みました。

チームのメンバーが休みを取らない理由をヒアリングしてまとめて、その解決策を考えました。半日なら仕事を抜けやすいが丸1日は休み辛い/休むと同僚に迷惑を掛ける/休む理由がプライベートすぎる/休むとお金を使ってしまう、といった私個人では思いつかない理由でした。

そこで、時間休を取り入れて、半日単位休暇や、年間有給取得計画表、誕生日休暇や子供入学卒業休暇等のイベント休暇、休んだ時の自己研鑽費用補助制度等を導入しました。これにより昨年度は有給取得率が99%を達成できました。目標達成の今年度はあと1%です。

日比) 有給取得率は素晴らしいですね。他に特徴的な働き方はありますか?

弘田社長) 『新機軸案件』への対応は、メンバー公募のプロジェクト制にしています。手を挙げてくれる人はいて、それにより主体的に自分で考えて動くようなマインドが大きく育ってきていると感じています。

プロジェクト制には副次的な効果もあり、プロジェクトに参加するにしても、既存の仕事があるので、その既存の仕事を調整しなければならないのです。そこで既存の仕事を他の人に教えて引き継ぐための多能工化が進みました。

実は、有給休暇でも同じ効果があり、休むためにほかの人に仕事を教えるので多能工化が進みました。

日比)こういう企業文化の会社にしたいなどはありますか?

弘田社長) 出光で有名な「人間尊重」「大家族主義」「独立自治」は好きな企業文化で憧れています。

それぞれが自立独立した上で、状況によっては依存しあえる相互依存の関係で、一緒にいてよかったなと思える仲間と一緒に仕事したいです。

定時に来て定時に帰り時間を切り売りする考え方や、プライベートは一切関わりませんというのは、少し寂しい。定期的に個人個人が仕事抜きで交わり、お互いを知った上で一緒に成長していってほしい。そのためにコミュニケーション活動というイベントで、毎月幹事がテーマを決めて、会社予算をつけて全員で活動してもらっています。

今年のヒットイベントは「大野川でキス釣りしてそれを喰らう!」と「はじめての食品サンプルづくり」です。コロナでお花見が中止になってしまったので、Zoom飲み会でも企画してくれないかなと思っています。

おわりに

日比) 最後に一言お願いします。

弘田社長) コロナ禍で先が全く読めない大変な時期ですが、まずは国内の半導体業界でシェアを広めつつ、他業界へ展開していく事は引き続き取り組んでいきたいです。

そのために必要なデジタル化を進めつつ、海外への主体的な展開もオンラインを活用しながらやっていきたいです。そして数年後、今度は実績をインタビューしてください。

Written by 日比 章善

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