in

小さな製造業のブランディングのはなし(2/2)

~ブランディングが会社の価値を3倍に高めたはなし~

血沸き肉躍るIPO支援→知られていない会社のIR支援に萎える

 

2015年秋、ひょんなことから私はブランディングの仕事に関わることになりました。それ以前は、マネジメントコンサルティングの分野で、事業戦略だとかIPO(株式の上場)など企業の成長支援みたいなことをやっていました

企業が上場するタイミングは、目に見えて企業価値が向上するときで、非常にやりがいを感じていました。

ひとたび、その会社が上場してしまうと、IPOの支援していた私みたいな者は、会社の状況を理解しているだろうということでIRコンサルティングに活動の場を移します。しかしながら、そこで結構な挫折を味わうことになるのです。

 

上場企業といっても、時価総額が数十億円の規模の企業は、機関投資家は、その流動性のなさ(出来高が少なすぎて市場での売買が困難なこと)から相手にしてくれません。機関投資家の投資ポジション(資金)からすると小さすぎるからです。

しかしながら、決算報告はしなきゃなりません。決算短信の数字を半期に一度アナリストを呼んで行うのですが、3,700社に上る上場企業の中では数人のアナリストさえなかなか来てくれません

 

そもそも、ほとんどすべての会社が決算説明会くらいやっていて、大勢のアナリストが来るような企業は人気のあるごく一部の企業です。その他多くの会社は、ほんの数人の自称アナリストや知り合いに向けた説明をやっているのが現実です。

これでは、株を買おうとする人が増えるわけありません

 

そんな状況に私の心は萎えていきました。半期に一度、定例的な仕事があるのは良いことですが、上場前のダイナミズムはありません。もちろん、企業が華々しい利益成長を成し遂げていれば違うのかもしれませんが、こつこつとした成長を旨とする企業は、いつしか株式市場では目立たない存在になっていくのです。

心の底では、すごく優良な企業なのに、なんで株式市場では評価されないの?という気持ちに苛まれていくのです。

 

ブランディングってなんか嘘くさいな

 

さて、話を元に戻します。2015年秋に、ある社長に、会社のブランディングをしたいというオファーをいただきました。ゴリゴリのマネジメントコンサルだった私は、ブランディングなんて、その昔、CI(コーポレイトアイデンティティ)ブームがあった時、デザイン系の会社が、ロゴマークだけ変えて暴利をむさぼっていたという悪印象以外ありません。

しかし、社長の意思は固く、会社の認知度を上げ、会社を知ってもらい、付加価値を認識してもらい、適正な価格で製品を買ってもらえるような会社にしたいという信念に満ち溢れていました。

素人の私は、知り合いを頼り、ブランディングに造詣の深い人の話を聞き、これはというクリエイターとタッグを組み、ブランディングの仕事を開始しました。

それでも当初は懐疑的で、こんなことで会社の評価が変わるとは思っていませんでした。

 

目に見えるカタチにすれば感動させることができる

 

ブランディングの重要性が認識できたのは、社長と私とクリエイターが、会社の理念やビジョン、将来について話し合い、多くの人の腹に落ちるブランドコンセプトやブランドステートメント(キャッチコピー)をつくる段になった時です。

 

それは社長抜きの事前打ち合わせで起こりました。

コピーライターから、その会社のブランドステートメントについ複数案が提示されましたが、その案を示されたとき、ものすごい衝撃を受けたのです。

IR活動においてもいろいろな方法で会社のことを説明してきましたが、たった一言のコピーが、今までやってきたことは何だったのかと思えるほど、的確に会社を表していたからです

 

その打ち合わせの帰りには、社長に、「次回提案するコピーを見たら感動しますよ」とメールしてしまいました。いきなりハードルを上げてしまったので、メールしたのが良いことかどうかはさておき、そのくらい衝撃を受けたということです。

 

そして次回の提案の時、コピーライターの案を社長にお見せすると、社長は私同様感動していました。世の中にあまり知られていないBtoB製造企業であるがゆえに、事業内容や会社の方向をなかなか説明しづらかったのですが、コピーライターが、たったの10文字で見事に表したことへの感動です

 

その後、そのブランドステートメントに加え、企業カラーを統一し企業ロゴを手直し、さらに名刺や看板を作り変えたり、webを改修するなど、外に見える部分については多岐にわたり変更し展開しました。

ブランドの認知を高めるために動画をつくったり、新聞広告やテレビCMなど、様々なコミュニケーションの方法を駆使し認知度の向上を図っていきました。

 

結果は後からついてくる

 

2015年秋の株価が1,000円程度、今現在の株価は、コロナの影響や中国と米国の貿易摩擦の影響もあって落ちては来ていますが、2,700円、最高値の時は3,500円ほどになりました。企業の価値は最大3.5倍に増えたわけです。

 

もちろん、業績もよくなっていますし、その間に一部上場も果たしていますから、企業価値の向上のすべてがブランディングのおかげと言うつもりはありません。

 

そもそも最初に言った通り、この会社のブランディング活動は株式市場を意識してやったわけではありません。本当の成果は、お客様とのコミュニケーションが良くなったり、会社のことが多くの人に知られるようになったことによる、社員やそのご家族の気持ちの変化です。

 

この会社は、日進工具という超硬小径エンドミルという、精密加工に欠かせない切削工具をつくっている会社です。

https://www.ns-tool.com/ja/for_crafting_tomorrow/index.html

 

ブランディングは割りの良い投資

 

この会社は、2019年4月9日の日経新聞朝刊で、「過去10年で市場の評価を高めた企業」として掲載されています。この10年で286億円時価総額を増やし、そのうちの150億円以上(最大300億円以上)が、ブランディングプロジェクトを実施してから増加したものです。かける費用に比べるとものすごく割の良い投資です。

ブランディングの成果を株価で示すのは、本当は違うと思います。

株価は業績や経営環境に左右されますから。

ただ、数字で示せるわかりやすい指標ということでご紹介しましたが、それ以上に価値のあるプロジェクトであることを知っていただきたいと思います。

Written by 栗本義丈

アルファ・ファンクション㈲ 代表

What do you think?

製造業のデジタルトランスフォーメーションの進め方

中小製造業へ向けた情報セキュリティ講座_その3_不正アクセスについて